前立腺肥大症とは
男性の生殖器の一つである前立腺の内腺が肥大して、様々な症状を引き起こす状態を前立腺肥大症と言います。特定できる原因は分かっていませんが、男性ホルモンの変化などが影響して発症すると言われています。膀胱のそばにある尿道を取り巻く前立腺が大きくなることで、尿道が細くなったり膀胱を刺激するため排尿に関わる症状が現れます。特に中高齢男性に認められる進行性の疾患で60歳以上の男性に多く発症が見られます。
前立腺とは
前立腺は、男性にしかない生殖器であり、精液の一部(前立腺液)を生成することで精子の栄養となったり、保護したりする働きがあります。前立腺は内腺と外腺に分かれており、内腺が肥大する前立腺肥大症と外腺ががん化する前立腺がんは全く異なる疾患で関連性はありません。
前立腺肥大症の症状
- 頻尿:尿意を感じる回数が増える。
- 排尿困難:排尿を始めるのが難しくなる。
- 残尿感:排尿後も尿が残っているような感覚がある。
- 夜間頻尿:夜間の排尿の頻度が多くなる。
- 尿意切迫感:尿意を催すと我慢できない。
- 尿勢低下:排尿時の勢いが弱い。
- 尿勢途絶:尿が途切れながら排出される。
など
前立腺肥大症の原因
はっきりとした原因が未だに分かっていませんが、男性ホルモンなど性ホルモン環境による影響によって発症するとされています。特に、50歳以降の中高年に多く発症が見られます。前立腺肥大し始めるのは、50歳以降では約30%、60歳で約60%、70歳で約80%、80歳では約90%とされています。そのうち1/4は治療が必要な前立腺肥大症と言われています。また、生活習慣病を引き起こす高血圧や脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームなどの関与も指摘されています。
前立腺肥大症の検査・診断
尿検査
尿検査では、血尿の有無や尿の濁りなどを確認します。
残尿測定検査前立腺肥大による尿道の狭小が排尿障害を起こします。排尿障害がないかの評価いたします。
PSA検査
前立腺特異抗原検査をPSA検査と言い、血液で測定可能な前立腺がんマーカーです。正常値4.0ng/mLを超えると前立腺がんの疑いがある状態とされます。PSA検査は、前立腺がんのスクリーニング検査として用いられます。
超音波検査
(エコー検査)
超音波検査で前立腺体積や形態を測定評価します。20mlを超えると前立腺肥大となります。20ml以下でも形態によっては前立腺肥大症症状を伴うことはあります。
前立腺肥大症の治療
主に、薬物治療・手術治療・保存的治療があります。
薬物治療
前立腺肥大が起こると、以下の理由から尿の通過障害を起こします。
- 前立腺が肥大することで尿道が圧迫されて尿が出にくくなります。
- 交感神経の前立腺の平滑筋に対する緊張が高まり、平滑筋が収縮することで尿道が圧迫されてしまいます。
α1遮断薬
前立腺の平滑筋におけるα1受容体(交感神経受容体)を遮断し、前立腺平滑筋の緊張をほぐすことで尿道が圧迫されるのを緩和させます。
ホスホジエステラーゼ5阻害薬
血管拡張作用、前立腺や膀胱の平滑筋弛緩作用により血流が改善します。その結果、酸素供給が改善し頻尿や排尿時の勢いなどの症状改善を図ります。
5α還元酵素阻害薬
男性ホルモン作用を抑制して前立腺の体積を数カ月かけて小さくします。その結果、前立腺が肥大することによる物理的な尿道圧迫を解消します。
手術治療
薬物治療で改善が見られない場合や、合併症などを引き起こした場合には手術治療を検討します。手術治療は近年大きく進化を遂げています。術中血量や手術時間などの身体負担を軽減し、入院期間も短縮されました。患者様の状態やご希望に合わせた手術方法あるいは施設をご提案いたします(久我山病院で当クリニック院長が手術施行可能です)。
保存的治療
膀胱訓練
排尿間隔を少しずつ長く延長していく訓練を行います。尿を我慢することで、膀胱に尿が溜まる量を増やしていきます。排尿間隔をまずは15分単位で延ばしていき、最後には2~3時間程間隔が空くように訓練します。
フレイル対策と前立腺肥大症治療
『加齢により心身が負い衰えた状態』をフレイル(Frailty)と呼び、フレイルを経て要介護状態になると考えられています。フレイルを克服することが、高齢者の自立した生活を守るとされています。泌尿器科領域においてもフレイルは重要な問題です。尿意切迫感や尿失禁などの膀胱(下部尿路)機能障害は夜間転倒、尿路感染症、皮膚トラブル、心理社会的影響、QOL低下などを引き起こします。その結果、高齢者がフレイルに陥る現象をウロ・フレイル(urological frailty)と定義されています。ウロ・フレイルへの適切な対策が健康長寿の達成に貢献すると考えられ、特に前立腺肥大症治療が注目されています。
前立腺肥大症の膀胱は狭い尿道に尿を流すために、膀胱内圧を高圧にします。前立腺内服治療が長期になれば、膀胱の過酷な状況が続くため膀胱平滑筋は発達し膀胱壁が肥厚し柔軟性を失います。その結果、膀胱容量が減少し蓄尿不良となり治療困難な膀胱機能障害となります。前立腺肥大治療において内服治療は症状を改善させますが、前立腺を小さくすることはできません。根治的治療は手術療法のみですので、前立腺中等度肥大(30~40㎖)以上の症例には手術療法を検討します。
2022年に保険適応となった経尿道的水蒸気治療(WAVE)や経尿道的前立腺つり上げ術(PUL)は既存の前立腺肥大手術に比べ、身体的負担や手術時間、入院期間を大幅に軽減・短縮しました。高い治療効果と低侵襲の手術療法が多くの前立腺肥大症例にとって身近になり、ウロ・フレイルの予防になると考えています。
WAVE、PUL手術は院長が執刀
当クリニックと連携しています久我山病院泌尿器科では前述の経尿道的水蒸気治療(WAVE)や経尿道的前立腺つり上げ術(PUL)を行っております。
いずれの手術も当クリニック院長が執刀しますので術前・手術・術後まで一貫した安心安全な医療を提供させていただいております。どうぞお気軽にご相談ください。
経尿道的水蒸気治療(WAVE)/Rezūm
㈱ボストン・サイエンティフィック ジャパン
- 公式患者様向けサイト:前立腺肥大症の手術を知る (bph-chiryo.jp)
- Youtube動画
経尿道的前立腺つり上げ術(PUL)/UroLift2
㈱テレフレックスメディカル ジャパン
- 患者様向けカタログ(PDF)
- 公式Youtube動画:”UroLift 2 Procedure”
前立腺肥大症における
飲み物と食事
良い食事
青魚
オメガ-3脂肪酸が豊富なサバやサーモンなど青魚を中心に摂取することをお勧めします。
野菜・果物
野菜や果物にはビタミンと抗酸化物質が豊富に含まれています。前立腺を健康に維持するのにも有効です。
豆類・ナッツ
豆類・ナッツ類は植物性タンパク質のうち良質で、前立腺の健康に非常に有効とされています。
悪い飲み物・食べてはいけないもの
カフェイン飲料
カフェインを含む飲料には利尿作用があるため、前立腺が肥大している場合には摂取を控えます。
アルコール
アルコールにも利尿作用があるため、前立腺肥大症の方は摂取を控えます。
加工肉
加工肉は前立腺肥大を引き起こすリスクが高い食品です。なるべく摂取を控えることをお勧めしております。